(文・撮影=保高幸子)

永田裕城
勝負の世界は甘くなく、進学した日大在籍中は新人選手権で勝ったものの、全国タイトルには恵まれなかった。どうしてもレスリングを続けたいという思いを抱き、一般隊員として自衛隊に入隊。25歳の今年は、全日本社会人選手権で優勝して米国遠征を経験。3年目の意地で全日本選手権初優勝を狙う。
年 | 選 手 名 | 所 属 | 階 級 |
1997・98年
|
松永共広 | 静岡・沼津学園 | 46・49kg級 |
〃
|
小幡邦彦 | 茨城・霞ヶ浦 | 74・76・90kg級 |
2005・06年
|
永田裕城 | 京都・網野高 | 74・84kg級 |
■最高の環境の自衛隊、「頑張るしかない」-
永田はタイトルのなかった大学時代を「自由な生活と親からの仕送りへの甘えがありました。単位取得にも追われてレスリングに集中できていなかったと思います」と振り返る。卒業にあたり、自衛隊は時間や住居に制限があって規律の厳しい環境であることは知っていたが、「自分には大きな問題ではありませんでした」と、自然と入隊(体育学校)へ気持ちが動いたという。
自衛隊が週1回取り入れているSAQトレーニング=スピードや素早い反応を鍛える神経系トレーニング=に汗を流す永田
「こんなに良い環境なのだから頑張るしかないです。レスリングに対する思いがより強くなりましたし。大学時代は体調に合わせて加減して練習していましたが、今はその時の100パーセントを出すようになりました」と、“プロ”としてレスリングをする自身の心境の変化を語る。
永田は過去2度、全日本選抜選手権で表彰台を経験している。大学4年生の時の2010年大会で、自身最高成績の2位に入賞している。この時は、「松本真也先輩(警視庁)と松本篤史先輩(ALSOK)が同じブロックで、自分は反対のブロックだったので…」と、実力の2位だったとは思っていない。入隊して2年目、昨年の全日本選抜選手権での3位入賞は、当時の正直な実力だっただろう。
■今年6月の屈辱をはね返せるか
しかし、その後の昨年の全日本選手権と今年の全日本選抜選手権では、どちらも2回戦敗退と苦汁を飲んでいる。「後手に回ってしまった。先にアタックするべきだった」と原因を分析。特に今年の全日本選抜選手権での赤熊猶弥(拓大)戦での黒星は屈辱的で、スロースターターの永田は赤熊にタックルを許すと、そのままアンクルホールドで連続失点、テクニカルフォール負けだった。
「年下の選手に負けたのは悔しかったです。今までコーチに言われていたことが、そのまま悪く出てしまって…。それからは、ちゃんと自分から攻める意識をして練習や試合に臨むようになりました」と振り返る。その変化を証明するように、翌月の全日本社会人選手権では前に出るレスリングを実践できた。
全日本社会人選手権は2年連続で制覇(写真は2012年)
今年の世界選手権代表の松本真は「同じ(京都・網野)出身で、あこがれの選手。倒したいという気持ちは大学生の時からありました」と長い間の目標。松本篤には昨年の岐阜国体で惜敗しており、「次こそは超えたい」というライバル。「84kg級トップの真也先輩と篤史先輩に当たるところまでは負けられない。勝って優勝し、お世話になっている人たちに恩返ししたいです。それからでないと、オリンピックのことは言えません」と意気込む。
これまでのレスリング人生で一番うれしかった瞬間は、「高校での四冠達成の時」だという。「至福の時」を8年ぶりに“更新”するのは、全日本チャンピオンになるほかないだろう。
永田裕城(えいた・ゆうき)=自衛隊 1988年6月29日、京都府生まれ。25歳。京都・網野高~日大卒。03年に全国中学生選手権66kg級で優勝。網野高では05・06年に高校四冠を制覇し、05年にはアジア・カデット選手権で銀メダル獲得。日大に進み、08年に東日本学生秋季新人選手権で優勝。2010年は全日本選抜選手権で2位に入ったが、学生タイトルは手にできなかった。2012・13年に全日本社会人選手権を制覇。175cm。 |