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【ジュニアクイーンズカップ・特集】天国にいる盟友と二人三脚! 「痛い時も幸奈の存在で頑張れる」…倉舘愛(日大)

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(文・撮影=増渕由気子)

 交通事故を乗り越えて元全日本女子連盟MVPの倉舘がカムバックだ! ジュニアクイーンズカップのジュニア女子56kg級に、2012年世界カデット選手権(アゼルバイジャン)で優勝した倉舘愛(日大)が3年ぶりに出場。初戦をテクニカルフォールで勝ち抜いた。

 2回戦で連覇を狙う入江ななみ(九州共立大)に0-5で敗れたが、ラスト1分まで0-1と大接戦を繰り広げ、ラスト30秒切ったところでスタンドから倒されて4失点してしまったものの、終盤、入江に30秒のアクティブタイムを課すなど、一時は追い詰めた。

 倉舘は「優勝したかった」と涙を流して悔しがったが、日大の金浜良コーチは「けがの状況から、当初は4年生の時に試合に出られたらいいと思っていたくらい。こんなにも早く実戦に戻ってきて、本当にすごいことです」と、2年生になったばかりの倉舘を称えた。

 倉舘は東京・安部学院高時代の2012年にジュニアクイーンズカップのカデット56kg級で優勝し、世界カデット選手権でも頂点に立って全日本女子連盟選出の年間最優秀選手賞を受賞。日本女子中量級のホープとして期待されていた。そんな矢先、不幸に襲われた。

 高校の修学旅行で沖縄へ行った2013年3月、自主練習で行っていた朝のロードワークで赤信号を無視して突進してきた車にはねられた。1人が死亡し、倉舘が重傷を負う大事故へ。死亡したのは、アジア・ジュニア選手権2位の堀幸奈さん。倉舘も右足首を開放骨折(強い衝撃によって骨折し、折れた骨が皮膚を突き破って外に出てしまい、皮膚や筋肉、血管などにまで損傷を与えている骨折)し、選手生命の危機に立たされてしまった。

■生きている自分は、幸奈の分までレスリングをやる

 その事故から1年半後の昨年10月、倉舘は全日本女子オープン選手権(静岡・三島市)のマットに立っていた。事故当時に診断した中嶋耕平ドクターが「けがの重度からみて、日常生活が送れるようになれればいい、というほどだった」と振り返るほど厳しい状況だったが、リハビリをやり遂げて競技の一線に戻ってきた。

 高校時代の恩師、成富利弘・安部学院高監督は「リハビリは辛かったに違いない。倉舘の精神力には頭が下がる」と、3年ぶりのクイーンズカップのマットで初戦を突破した教え子を賞賛した。

 復帰するだけでも大変なことなのに、倉舘の意識はとても高かった。クイーンズカップを本格的な復帰戦と見据えていたようで、「この大会は優勝して世界ジュニア選手権に行くことが、幸奈と決めた目標だった。けがをして1年半ほど棒に振りましたが、幸奈の分まで頑張ろうと思ってこの大会にかけてきた。けれど(優勝に)届かなかったです」と悔しさを表した。

 昨年優勝の入江に対し、「合宿で練習して、いろいろ作戦は立てていた」と勝つつもりでいたため、試合後は悔しさで泣き崩れた。

 交通事故の後、「どうしてこんなことになったのだろう」と思い悩む時もあったようだが、「幸奈が生きていたら、きっと大学でもレスリングをやっていたと思います。だから、生きている自分は幸奈の分までレスリングをやろうと思いました」と、自然と競技に復帰する気持ちが沸いてきたそうだ。

 “元MVP選手”と突出した力を持っていた倉舘だが、事故の後遺症により、以前できていたことがすべてできるわけではなくなった。「みんなが簡単にやれることが、自分にはできなくなっていた。けど、金浜コーチや日大のみんなが、私に似合う技をたくさん教えてくれて、今日の試合でも使うことができました」と、周りのサポートを得てレスリングスタイルを全面リニューアルしてきた。

 足に痛みが出てしまう時もあるが、倉舘は「痛い時も幸奈の存在で頑張れる」と、天国にいる盟友と“二人三脚”で復活ロードを走り続けている。このクイーンズカップで優勝するためすべてをかけてきたため、「次の目標はすぐには決められない」と話したが、金浜コーチは「ライバルに勝ってもらいたいから、次は全日本学生選手権で勝たせたいですね」と、新しい目標を倉舘に授ける予定だ。

 盟友の死と自身の開放骨折という重症を乗り越えてマットにカムバックした倉舘。優勝できなかったものの、元MVPの輝きは十分に取り戻していた。


 


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