(文・撮影=樋口郁夫) 女子の第1回インターハイで4階級優勝の安部学院チーム
初日の49kg級で、山田海南江が中学時代に6つの全国タイトル(全国中学生選手権3連覇、全国中学選抜選手権3連覇)を総なめにして高校レスリング界にやってきた加賀田葵夏(東京・文化学園杉並)を破ったことが、チームを勢いづけてくれた。過去2度闘って2度とも負けている相手。勝った直後は団体戦で優勝したチームのように喜びを表し、チームが一丸となって燃える要因となった。
もっとも、山田は決勝では谷山菜緒(大阪・香ヶ丘リベルテ)に敗れて優勝ならず。成富監督は「気持ちは前に出ていた。最初に5点を取られたのが痛かった。第2ピリオドは互角にできていたのに…」と残念そうだが、「中学時代は何の実績もなかった選手。努力でここまで来た。山田の頑張りがチームを支えてくれた」と、初戦の健闘を褒めたたえた。
山田以上に選手を奮い立たせてくれたのは、マットサイドで2人のセコンドとともに試合を見つめてくれた“3人目のセコンド”だった。今年3月、修学旅行先の沖縄で信号無視の車にはねられ、懸命の治療もむなしく17歳の生涯を閉じた堀幸奈さんだ。 セコンド席で試合を見つめた堀幸奈さん(注=撮影のため、こちら側を向けてもらいました)
幸奈さんの遺影は、今回の大会だけではなく、試合や遠征に行く時には常にチームのお守りとして“同行”している。大会後の表彰式では、選手が「幸奈とともに表彰台に上がりたい」と希望し、主催者から認めてもらった。「幸奈とともに闘う」という気持ちが、今回の好成績につながったことは間違いないだろう。
60kg級を制した香山芳美主将は「目標は6階級だった。自分が優勝できたことはホッとしているけど、目標に届かなかったことが悔しい」と欲の深いところを見せ、勝因を問われ、「個人競技ですけど、チーム力は大事。3年生のみんながチーム全体の力を上げることに協力してくれたことが大きい」と、団結力を挙げた。
このあと、幸奈さんのことに話が及ぶと、「みんなが…」と言ったあと絶句。大粒の涙がほほを伝わり、言葉が出てこない。10秒、20秒…。インタビューの中止も考えた時、やっとの思いで「表彰台に一緒に乗られて、よかったと思います」と声を絞り出してくれた。選手の熱い気持ちは、間違いなく天国の幸奈さんに伝わっているだろう。
成富監督は「やはりインターハイ(という大会の存在)は大きい。選手の目の色が違います。女子のインターハイ実施に尽力をしていただいた高体連の先生方にお礼を言いたい」と感謝するとともに、正式競技化へ向けてさらなる努力を誓った。
優勝を決め、成富監督のもとで大粒の涙を流した田邉
■52kg級優勝・向田真優「3年生で優勝できればいいと思っていたので、1年生で優勝できたのはうれしいです。高校のレスリングは技が高度だし、自分の得意な技でも研究されてかからなくなり、ポイントを取られたりもしましたが、とにかく優勝できてよかったです。1年生で優勝したからには、3連覇を目指しますが、身近な目標は(20日からの)世界カデット選手権です。日本のチャンピオンになったのですから、世界のチャンピオンを目指します」
■70kg級優勝・古市雅子「うれしいです。でも、出る試合はいつも優勝を目指しているので、インターハイだから特にうれしいということはありません。1試合目で投げ技とかが単発になったりしました。世界カデット選手権も控えているし、決勝では自分のレスリングができるように心がけたのがよかったです。これまでは65kg級を中心にやってきましたが、これからは70kg級、72kg級でやります」